オンライン秘書が名簿・アンケート回答・問い合わせ一覧のような元データを生成AIで表に整えるときは、元データには手を付けず、作業用のコピーに対してAIに「統一案」「分割案」「重複の候補」を出させ、人が元データと突き合わせて採否を決める、という順で進めます。AIに任せやすいのは、表記ゆれの統一案、列の分割案、重複の候補出しまでです。また、行数が合っているか、元データに無い値が入り込んでいないかは、人が数えて確かめる部分として残ります。
仮の例を挙げます。依頼主から「イベント参加者の名簿とアンケート回答が別々のファイルにあり、表記もばらばらなので、一つの表にまとめてほしい」と頼まれたとします。秘書は元ファイルを別名で複製し、氏名や電話番号の列をAIに見せない形にしたうえで、会社名の表記ゆれの統一案、住所の列の分割案、重複の候補を出させます。変更したセルは一覧に残し、元データの行数と整理後の行数を式で説明できるところまで照合してから、依頼主に渡します。
この記事では、扱うデータの種類、個人情報の線引き、作業用コピーの作り方、表記ゆれ・列の分割・重複の三つの整え方、AIへの指示文、件数と値の照合、依頼主へ渡す前の記録までを順に説明します。請求書や領収書の整理は別の記事があるため、ここでは触れません。AIツールの優劣、料金、収入、作業時間の短縮率も書きません。
名簿・回答・問い合わせ一覧をAIで表に整える仕事の全体像
データの整理とは、元データの意味を変えずに、読みやすく集計しやすい形へそろえる仕事です。AIは整え方の案を出す役で、元データと一致しているかの判断は人が持ちます。
オンライン秘書が受ける事務の中には、依頼主が手元に溜めた名簿や回答のファイルを一つの表にまとめ直す作業があります。入力した人が複数いたり、フォームの設定が途中で変わったりすると、同じ意味の値が違う書き方で並びます。これを人が一行ずつ直すと時間がかかり、見落としも出ます。AIに候補を出させる使い方は、この手間を減らす手段として向いています。
ただし、AIの出力は元データと一致するとは限りません。一覧の途中の行を飛ばす、似た値を同じ値とみなして統合する、空欄を前後の行から推測して埋める、といったずれが起こり得ます。このうち最後の「空欄を埋める」は、整理ではなく元データの書き換えです。依頼主の名簿に載っていない会社名や住所が入ると、元データの責任を負う依頼主に、事実と違う情報を渡すことになります。
そこで、この記事では作業を「元データを守る」「案を出させる」「人が突き合わせて承認する」の三つの役割に分けて考えます。AIが担当するのは二番目だけです。一番目と三番目は人が担当し、特に三番目の突き合わせは、件数の照合と値の照合の二本立てで行います。仕事の範囲を決める前に依頼主と何を取り決めるかは、AI事務の副業を受ける前に依頼主と決める取り決めをまとめた記事にあります。
対象データの種類ごとに起きやすい乱れと任せる範囲
名簿・アンケート回答・問い合わせ一覧は、起きやすい乱れが異なります。乱れの種類に合わせて、AIに頼む整え方と、人が見る点を分けます。
同じ「表を整える」仕事でも、データの種類で注意する点が変わります。名簿は同じ人や会社が複数行に現れやすく、表記ゆれと重複が中心です。アンケート回答は、選択式の表記差に加えて、自由記述の改行や未回答の扱いが問題になります。問い合わせ一覧は、日時の書き方、再送による同内容の行、対応状況の言い回しの揺れが目立ちます。次の表は、種類ごとの乱れと、AIへの頼み方、人が見る点を整理したものです。
| データの種類 | 起きやすい乱れ | AIに頼む整え方 | 人が見る点 |
|---|---|---|---|
| 名簿 | 会社名や役職の表記ゆれ、同じ人の二重登録、1つのセルに複数の情報 | 表記の統一案、重複の候補出し、列の分割案 | 統一の基準を依頼主が承認したか、同姓同名を同一人物にしていないか |
| アンケート回答 | 選択肢の書き方の差、自由記述の改行、未回答の空欄 | 選択肢表記の統一案、列の分割案 | 自由記述は原文のまま残しているか、未回答を埋めていないか |
| 問い合わせ一覧 | 日時の書式の差、再送による同内容の行、対応状況の言い回しの揺れ | 日時の書式をそろえる案、重複の候補出し | 年が書かれていない日付を補っていないか、対応状況の言葉を依頼主の運用と照らしたか |
表の右端の列に挙げた確認点は種類ごとに異なりますが、どの種類でも共通して人が確認するのは「元データに無い値が入っていないか」です。AIは自然な文章や表を作る性質があり、欠けている部分を、それらしい値で埋めてしまうことがあります。個人情報保護委員会の注意喚起でも、生成AIの応答には不正確な内容が含まれることがあると述べられています。詳しくは次の節で扱います。
最初の仕事として選ぶなら、行数が少なく、列の意味がはっきりした名簿が向いています。自由記述を多く含むアンケートは、原文を損なわずに整える判断が増えるため、慣れてからのほうが進めやすくなります。
AIに渡す前の準備:個人情報の線引きと公式の注意点
名簿や回答の列には、氏名・電話番号・住所のように個人に結びつく情報が入ります。生成AIに渡す前に、渡す範囲を依頼主と決め、サービスの規約を読んでおくことが準備の中心です。
個人情報保護委員会が2023年6月2日付で公表した「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(2026年10月13日に確認)には、個人情報取扱事業者向けの注意点として、個人情報を含むプロンプトを入力する場合は、特定された利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること、という趣旨の記載があります。また、あらかじめ本人の同意を得ずに個人データを含むプロンプトを入力し、その個人データが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合は、個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性があるため、サービス提供事業者が個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること、とされています。
同じ文書の一般の利用者向けの留意点には、入力した個人情報が機械学習に利用されることがあり、他の情報と統計的に結びついたうえで、正確または不正確な内容で出力されるリスクがあること、応答結果に不正確な内容が含まれることがあること、サービス提供事業者の利用規約やプライバシーポリシー等を十分に確認し、入力する情報の内容等を踏まえて適切に判断すること、といった点が挙げられています。この記事の作業で言えば、規約の確認と、入力する情報の絞り込みが、秘書側でできる準備にあたります。
なお、依頼主が文書にいう個人情報取扱事業者にあたるかどうかや、秘書が依頼主から預かるデータをどの立場で扱うかは、契約の内容や依頼主の事情で変わります。この記事では法的な判断はできません。迷うときは、AIに入れる前に、依頼主へ「このデータをAIサービスに入力してよいか」を書面やチャットで確認し、その返答を残しておきます。次の表は、渡す情報と渡さない情報の分け方の一例です。
| 情報の種類 | AIに渡すか | 扱い方の例 |
|---|---|---|
| 氏名・電話番号・メールアドレス・住所の本体 | 渡さない | 行番号などの記号に置き換えるか、その列を除いて渡す |
| 会社名・役職など所属を表す列 | 依頼主に確認してから | 個人事業主の屋号や担当者名が混じる場合は、個人に結びつくものとして扱う |
| 自由記述の回答 | 中身を読んでから判断 | 個人が特定できる記述や第三者の情報が無いと確認できた行だけを渡す |
| 列の見出しと、書式の見本(架空の値) | 渡してよい | 実データではなく見本の値で、整え方の指示を試す |
表の分け方は、この記事が提案する運用の一例で、公式文書が示す区分ではありません。扱いやすい方法は、列ごとに「重複を除いた値の一覧」だけを取り出してAIに渡す方法です。たとえば会社名の列なら、同じ値は1回だけ並べた一覧を渡せば、誰がどの会社に所属しているかという行ごとの結びつきをAIに見せずに、表記ゆれの統一案をもらえます。
元データを守る作業用コピーの作り方
元データを守るとは、依頼主から受け取ったファイルを一切書き換えず、整理は別名で複製したコピーの上で行うことです。コピーを分けておけば、AIの出力が誤っていても、元データから何度でもやり直せます。
最初に行うのは、受け取ったファイルを読み取り専用の気持ちで扱い、別名で複製することです。複製したファイルの名前には、元のファイル名と作業の目的が分かる言葉を入れ、元のファイルとは別のフォルダに置きます。Microsoftのサポートページ「重複しない値を抽出する、または重複する値を削除する」(2026年10月13日に確認)でも、重複を削除する前に、元のセル範囲や表を別のワークシートやブックにコピーしておくことが案内されています。AIを使う前の段階から、同じ考え方で作業を始めます。
次に、作業用コピーの中で、整理前の列と整理後の列を並べて持てるようにします。たとえば「会社名(元)」の右に「会社名(整理後)」の列を作り、元の列は消さずに残します。こうすると、どのセルを変えたかが同じ行の左右で比べられ、後の値の照合が楽になります。列を上書きして作業する方法は、手早く見えますが、どこを変えたか後から追えなくなるため、避けます。
最後に、元データの行番号を残す列を、作業用コピーの先頭に1列足します。行を並べ替えたり、重複をまとめたりしても、この列を見れば元データの何行目だったかが分かります。件数の照合や、依頼主から「この行はどうなりましたか」と聞かれたときの説明に使います。行番号の列は納品の前に外してもよいですが、変更の記録には元の行番号を使うので、記録の作成が終わるまでは残します。
表記ゆれを統一する:対応表をAIに作らせて人が承認する
表記ゆれとは、同じ意味の値が違う書き方で並んでいる状態のことです。統一では、AIに「元の表記から統一後の表記への対応表」の案を出させ、人が承認した対応だけを表に反映します。
表記ゆれの統一で事故が起きにくい進め方は、AIに表そのものを書き直させず、対応表だけを出させる方法です。表そのものを書き直させると、行の脱落や統合が起きても気づきにくくなります。対応表なら、「この表記をこの表記に直す」という一覧が小さくまとまるため、人が1つずつ目で確かめられます。承認した対応表は、表計算ソフトの検索と置換の機能などで、作業用コピーの「整理後」の列に反映します。
統一の基準は、AIではなく依頼主が決めます。たとえば会社名を「株式会社」付きに寄せるのか、略さない形に寄せるのかは、依頼主の運用で決まる事柄です。基準が決まっていなければ、元データの中で最も多く使われている書き方を候補にして、依頼主に提案します。次の表は、会社名の列について対応表の案を並べた仮の例です。
| 元データの表記 | 統一案 | 根拠 | 人の判断 |
|---|---|---|---|
| (株)サンプル商事 | 株式会社サンプル商事 | 元データの別の行に、同じ会社を指す「株式会社サンプル商事」がある | 承認して反映 |
| ㈱サンプル商事 | 株式会社サンプル商事 | 上の行と同じ根拠 | 承認して反映 |
| サンプル商事 | 変更せず保留 | 株式会社が付く正式名かどうか、元データからは分からない | 依頼主に質問する |
| (空欄) | 空欄のまま | 元データに値が無い | 補わない |
この表のとおり、統一案の根拠は「元データの中に同じ表記がある」ことに置きます。根拠が元データの外にある統一、たとえばAIが「おそらく正式名はこうだろう」と判断した統一は、採用しません。3行目のように、元データだけでは決められない値は、変更せず保留にして依頼主に質問します。4行目の空欄も、他の行から推測して埋めず、空欄のまま残します。
日付の統一でも同じ考え方を使います。たとえば「10/11」のように年が書かれていない日付を、AIが作業日の年で補って「2026/10/11」と出力することがあります。元データに年が無い以上、その年が正しいかは分かりません。年を補う前に、元データの前後の行や、ファイルの作成日から読み取れる根拠があるかを確かめ、無ければ年が不明のまま残して依頼主に確認します。
列を分割する:分けられない値は空欄で残す
列の分割とは、1つのセルに入っている複数の情報を、意味ごとの列に分けることです。分け方の案はAIに出させ、元の値に含まれない部分は空欄のまま残します。
名簿の住所、フォームの氏名欄、問い合わせの日時の欄は、1つのセルに複数の情報が入りがちです。これを集計や並べ替えに使うには、都道府県・市区町村・それ以降のように列を分けます。AIは分け方の規則を作ったり、分けた結果の案を出したりするのが得意です。一方で、元の値に含まれない部分を推測で足してしまう点には注意が必要です。次の表は、住所の列を3つに分割する仮の例です。
| 元の住所 | 都道府県 | 市区町村 | それ以降 |
|---|---|---|---|
| 東京都千代田区サンプル1-2-3 | 東京都 | 千代田区 | サンプル1-2-3 |
| 大阪市サンプル区4-5 | (空欄) | 大阪市サンプル区 | 4-5 |
| (空欄) | (空欄) | (空欄) | (空欄) |
2行目に注目します。元の住所に「大阪府」の文字は無いため、都道府県の列は空欄のままです。市の名前から都道府県は推測できると感じても、それは元データに書かれていない情報です。推測で補うと、元データには無い値が表に入ります。補う必要が依頼主の側にあるなら、補う許可と基準を依頼主に確認してから、補った列を別の列として分けて記録します。補った値と元の値を同じ列に混ぜません。
分割の結果は、分けた列を結合して元の値と同じになるかで確かめられます。1行目なら、「東京都」「千代田区」「サンプル1-2-3」をつなげると元の住所になります。2行目は、空欄の都道府県を除いて「大阪市サンプル区」と「4-5」をつなげると、元の値と一致します。この見方で、分割の前後で文字が増えていないか、欠けていないかを、数行を抜き取って確認します。
重複を見つける:削除ではなく候補として出す
重複とは、同じ人や同じ問い合わせが複数の行に載っている状態です。AIには、重複と思われる行の組を候補として出させ、どれを残すかは人が元データを見て決めます。
重複の扱いは、整理の中でも取り返しがつきにくい部分です。行を消してしまうと、その行にだけ書かれていた情報、たとえば後から更新された電話番号や、別の日に届いた問い合わせの文面が失われます。そのため、AIには「消してよい行」ではなく、「同じと思われる行の組」を行番号の一覧で出させ、消すかどうかは人が判断します。
表計算ソフトに重複を扱う機能がある場合は、それを使う手もあります。Microsoftのサポートページ(2026年10月13日に確認、重複しない値を抽出する、または重複する値を削除する)では、「データ」タブの「重複の削除」で重複する行を削除できること、判定に使う列を選べること、同じ値のうち最初に出現したものが残ること、判定は画面に表示されている内容に基づくことが案内されています。さらに、削除の前に条件付き書式の「重複する値」で重複を強調表示して確認する方法も載っています。このページには、判定に含めない列があっても、選んだ列の値が一致すれば行全体が削除されるという趣旨の注意もあります。削除する機能は、判定する列の選び方を誤ると、別の人の行まで消えるため、まず強調表示で候補を確かめる順にします。
判定に使う列は、データの種類で変わります。次の表は、判定に使う列の組み合わせごとに、拾える重複と、誤りやすい点を整理したものです。
| 判定に使う列 | 拾える重複 | 誤りやすい点 |
|---|---|---|
| メールアドレスの列 | 同じ人の二重申込 | 家族や部署で共用しているアドレスだと、別人を同一とみなす |
| 氏名の列だけ | 同じ人の二重登録 | 同姓同名の別人を同一とみなす。姓と名の間の空白の有無で別扱いにもなる |
| 氏名と電話番号の列 | 氏名も連絡先も一致する二重登録 | 電話番号の書き方(ハイフンの有無)が違うと一致しない。先に表記を統一する |
| 問い合わせ日時と本文の列 | 再送された同内容の問い合わせ | 日時の書式が違うと一致しない。本文の一部が違う続報を同一とみなす |
表の3行目と4行目にあるとおり、重複の候補出しは、表記の統一を先に済ませてから行うと拾いやすくなります。順序は「表記ゆれの統一、列の分割、重複の候補出し」とします。候補が出たら、元データの該当行を並べて見て、残す行と統合する行を決めます。統合するときは、どの行番号とどの行番号を1行にまとめたかを、変更の記録に残します。
AIへの指示文の組み立て方と完成例
指示文には、何の列を、どの基準で、どんな形式で出すか、そして元データに無い値を足さないことを書きます。出力の形式を対応表や行番号の一覧に限ると、後の照合が楽になります。
指示文は、渡す情報を最小限にしたうえで、守ってほしい条件を先に書くと安定します。条件は「元データに無い値を足さない」「行を減らしたり増やしたりしない」「判断できない値は保留と書く」の三つを入れます。次に示すのは、会社名の列で表記ゆれの統一案を出させる指示文の仮の例です。名前を置き換えた会社名の一覧を、重複を除いて貼り付ける前提で書いています。
次に貼る一覧は、名簿の「会社名」の列から、同じ値を1回だけ取り出したものです。表記ゆれを統一するための対応表を、「元の表記」「統一案」「根拠」の3列の表で出してください。統一案は、貼った一覧の中に同じ会社を指すと読み取れる表記がある場合だけ、その表記に寄せてください。一覧に無い会社名や、正式名の推測を足さないでください。判断できない値は、統一案の欄に「保留」と書き、理由を根拠の欄に書いてください。
この指示文は、実際に使う前に、架空の値で試します。見本の一覧を少数用意して貼り、「保留」が正しく使われるか、一覧に無い値が混ざらないかを見ます。出力に元の一覧に無い値が混ざっていれば、指示文の条件が足りないか、一覧が長すぎる可能性があります。長い一覧は、いくつかに分けて渡すほうが、見落としが減ります。
出力の形式を表や行番号の一覧に絞るのは、照合のためです。AIに文章で「このように整えました」と説明させると、どの値をどう変えたかが読み取りにくくなります。「元の表記」と「統一案」が1行ずつ対になった表なら、承認する側が上から順に見て、1つずつ判断できます。依頼主へのメールの下書きなど、文章を整える用途はメール返信文の案を作る手順をまとめた記事で扱っています。AIツールのプランや設定を使う前に確かめる手順は、秘書業務でAIツールを使う前に確かめる手順をまとめた記事にあります。
件数照合:元データの行数と整理後の行数を式で合わせる
件数照合とは、元データの行数と、整理後の行数に除外した行を足した数が一致するかを式で確かめることです。一致しなければ、行の脱落か、説明のつかない統合が起きています。
整理を終えた表は、見た目がきれいなほど、行が減っていることに気づきにくくなります。そこで、整理の前後で行数を数え、差を「何の行が何行減ったか」で説明できるかを確かめます。説明できない差があれば、まず行番号の列を使って、元データにあって整理後に無い行を探します。次の表は、元データが20行の名簿を整理した仮の例です。
| 区分 | 行数 | 記録しておくこと |
|---|---|---|
| 元データ(見出し行を除く) | 20行 | 照合の出発点。ファイルの名前と取得日 |
| 空白だけの行として対象外にした行 | 1行 | 元データの行番号 |
| 重複と判断して1行にまとめたときに残らなかった行 | 2行 | まとめた行の組(残した行番号と、まとめた行番号) |
| 整理後の表(見出し行を除く) | 17行 | 作業用コピーの現在のファイル名 |
この例の式は、20行(元データ)が、17行(整理後)と1行(空白だけの行)と2行(重複でまとめた行)の合計に等しい、というものです。20と17+1+2はどちらも20で、一致しています。重複の候補が2組あり、それぞれ2行を1行にまとめたので、残らなかった行が2行、という説明もつながります。もし整理後が16行だったなら、1行の行方が説明できないため、行番号の列から該当する行を探します。
数え方は、表計算ソフトの行番号の表示や、選択範囲の行数の表示で確かめます。見出し行を含めて数えるのか、除いて数えるのかを最初に決めて、記録の全体で同じ数え方にそろえます。見出し行を含めたり除いたりが混ざると、1行のずれが生まれ、不一致の原因を探す手間が増えます。
値の照合:変更したセルを一覧にして元データと突き合わせる
値の照合とは、変更したセルについて、元の値と整理後の値が意味として同じか、元データに無い値が入っていないかを確かめることです。変更したセルの一覧を作り、その一覧を元データと見比べます。
件数が合っていても、中身が書き換わっている場合があります。たとえば行数は同じでも、電話番号の数字が1つ入れ替わっていたり、会社名が別の行の値になっていたりします。これを見つけるには、変更したセルだけを抜き出した一覧を作り、元の値と整理後の値を並べて確かめます。作業用コピーに「会社名(元)」と「会社名(整理後)」を並べておけば、2つの列が異なる行だけを抜き出して、変更の一覧にできます。
全部のセルを目で見るのが大変なときは、変更したセルの一覧を全件確かめ、変更していないセルは抜き取りで確かめます。変更していないはずのセルが書き換わっていないかを見るために、整理前後の2つの列を比べて、違いがある行の数を数えます。違いがある行の数が、変更の一覧に載せた行数と一致していなければ、一覧に載っていない変更が起きています。
確かめる観点は四つに絞ると、漏れが減ります。一つ目は、元の値と整理後の値が同じ意味かどうか。二つ目は、元データに無い値、たとえば補われた年や都道府県が入っていないか。三つ目は、行の対応が崩れていないか、つまり別の行の値が混ざっていないか。四つ目は、自由記述が要約や言い換えをされず、原文のままか。このうち二つ目と四つ目は、AIの出力で起きやすいため、特に注意して見ます。元データを調べて整理する別の仕事、たとえば出典付きの資料作りは、出典付きの調べものの進め方をまとめた記事で扱っています。
依頼主へ渡す前の確認と変更の記録
渡す前の確認とは、整理した表と一緒に、何を変えたかの記録を依頼主が読める形で用意することです。記録があれば、依頼主は元データとの違いを自分で確かめられます。
納品物は、整理した表だけでは足りません。依頼主が知りたいのは、元データから何が変わったのか、AIに何を渡したのか、判断を依頼主に戻した点は何か、の三つです。これらを変更の記録として表にまとめ、整理した表と一緒に渡します。次の表は、変更の記録に書く項目の仮の例です。
| 記録の項目 | 書くこと |
|---|---|
| 元データの名前と受け取った日 | どのファイルを、いつ受け取ったか |
| AIに渡した内容 | どの列の、どんな形(重複を除いた一覧など)で渡したか。渡さなかった列 |
| 行った整理 | 表記の統一、列の分割、重複のまとめのうち、何をしたか |
| 件数の照合 | 元データの行数、除外した行、整理後の行数と、式が成り立つこと |
| 依頼主に戻した判断 | 保留にした値と、その理由。依頼主が決めた基準 |
記録の中で、AIに渡した内容の欄は、依頼主から後で問い合わせが来たときの説明材料になります。渡さなかった列を明記しておけば、氏名や電話番号が外部のサービスに渡っていないことを、依頼主に示せます。また、保留にした値の欄は、秘書が勝手に判断しなかったことの記録でもあります。
渡す前の最後の確認として、納品用のファイルを開き直して、見出し行、行数、空欄の扱いを確かめます。作業用コピーのまま渡すと、元の列と整理後の列が並んだまま、あるいは行番号の列が残ったままになっていることがあります。依頼主が望む形に整えたファイルを別に作り、その中身が、作業用コピーの確認済みの内容と一致していることを見てから渡します。
別の業務との切り分けと次に読む記事
この記事で扱ったのは、名簿・アンケート回答・問い合わせ一覧のような、元データを表に整える作業でした。請求書や領収書の整理は、保存のルールや金額の確認が加わるため、請求書・経費精算の事務をAIで進める手順をまとめた記事で扱っています。日程の候補を作る仕事は日程調整をAIで進める手順をまとめた記事が参考になります。
自分がどの業務から始めるかを決めたい場合は、AIオンライン秘書の仕事内容と最初の一業務の選び方をまとめた記事と、未経験から業務サンプルを作る方法をまとめた記事が役に立ちます。この記事の手順を、見せられる業務サンプルにする場合は、実在の名簿を使わず、架空の値で作ります。LINEで届いた問い合わせの履歴を扱う仕事では、権限や契約の確認が先に必要です。詳しくはLINE運用代行を始める前に確かめることをまとめた記事にあります。ほかの受託の記事は、受託実務と仕事の進め方のカテゴリから選べます。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 依頼主から受け取った名簿を、そのままAIサービスに貼り付けてもよいですか。
- そのままの貼り付けは避け、まず依頼主に入力してよいかを確認します。個人情報保護委員会の注意喚起(2026年10月13日確認)には、サービス提供事業者の利用規約やプライバシーポリシー等を確認し、入力する情報の内容等を踏まえて判断することが挙げられています。確認する前でも、氏名や電話番号の列を除くか、記号に置き換えれば、渡す情報を減らせます。
- Q2. AIが出した表の行数が、元データより1行少ないときはどうしますか。
- 行番号の列を使って、元データにあって出力に無い行を探します。見つかった行が空白だけの行や重複としてまとめた行なら、件数照合の式の中で説明できます。説明のつかない行であれば、その行はAIの脱落として扱い、AIの出力は採用せず、作業用コピーに戻ってやり直します。
- Q3. 自由記述の回答も、AIで読みやすく整えてよいですか。
- 改行の位置をそろえる程度の整形は案として頼めますが、要約や言い換えはしません。回答者の言葉は元データそのものなので、変えると意味が変わる恐れがあります。個人が特定できる記述を含むかどうかを先に読み、含む行はAIに渡さない運用が安全です。
- Q4. 年が書かれていない日付は、どう扱えばよいですか。
- 元データに年が無い日付は、年を補わずに「年が不明」と記録して残します。前後の行や、ファイルの受領日など、年を読み取れる根拠が元データ側にあれば、その根拠を示して依頼主に確認します。AIに年を補わせると、元データに無い情報が入ります。
- Q5. 表計算ソフトの機能と、AIのどちらで重複を処理すればよいですか。
- 候補を出す段階ではどちらも使え、削除は人が確認してから行います。Microsoftのサポートページには、重複を条件付き書式で強調表示して確かめる方法が載っています。AIは、表記が少し違う同一の人物のように、機能では一致しない重複の候補を拾う補助に向きます。どちらの場合も、最終的に残す行は元データを見て決めます。
- Q6. 依頼主が基準を決めていないときは、どこまで進めてよいですか。
- 基準が要らない部分、つまり元データの中で同じ意味だと言える統一や、空白だけの行の除外までを進め、基準が要る部分は保留にして質問します。保留にした値と質問の内容は、変更の記録に残します。基準を秘書が決めて進めると、後で依頼主の運用と食い違う恐れがあります。
まとめ
名簿・アンケート回答・問い合わせ一覧を生成AIで表に整えるときの要点は、元データを守る、AIには案を出させる、人が件数と値で突き合わせる、の三つです。最初に別名で作業用コピーを作り、元の列を残したまま、表記ゆれの統一、列の分割、重複の候補出しの順に進めます。AIに渡す情報は、個人情報保護委員会の注意喚起や利用規約を踏まえて絞ります。
整理を終えたら、元データの行数と、整理後の行数に除外した行を足した数が式で一致するかを確かめ、変更したセルを一覧にして元データと見比べます。元データに無い値を補っていないか、特に年や都道府県、空欄が埋められていないかを見ます。判断できない値は保留にして依頼主に戻し、何を渡して何を変えたかの記録と一緒に納品します。
まず、行数の少ない名簿を一つ選び、架空の値で作った見本で、対応表の指示文と件数照合の表を試してみてください。手順が身につけば、実際の依頼でも落ち着いて確認できます。
